Thursday, November 6, 2014

2014-11-05 「ヒマラヤで泳ぐ」大沢茂男氏の珠峯公園

俺は何年か前から山で泳いでいるわけですが、今年の夏に雨で槍ヶ岳山荘で動けず停滞しているときに談話室で変わった本を見つけました。
なんだこの本は…
このときは全部は読めなかったんだけど、とにかく南極、北極、ヒマラヤで泳ぐというとんでもない人だということはわかりました。そして下山後にウェブで調べてみると、自宅に珠峯公園というものを作って公開しているとか。これは行ってみなくては!可能であれば大沢さんにお会いしたい!

まずはAmazonで本を購入。絶版なので中古を購入しました。1200円で出してる業者があって助かった。次の業者は2900円というお値段でした。中身はというと、正直文章はあまり上手ではないです。同じような表現が繰り返し出てきてちょっとしつこい。しかしこの本はそういう文章を楽しむためのものではなく、いかにして大沢さんがヒマラヤで泳ぐようになったか、という経緯を知るための本です。

そして読めば読むほど「あ、ありえねえ…」という思いが強くなってくる。大沢さんは信州・伊那の農家の息子として生まれ、言ってしまえば貧農でかなりの苦労をして育ち、戦争も体験し、帰国後も自力で開墾し果樹園を大きくしていったのです。

その中で何かを成し遂げたいという気持ちを持ち、それが南極での遊泳、北極での遊泳、そしてヒマラヤでの遊泳となっていった。さらに北極南極は飛行機や船でその場までいけるけど、ヒマラヤとなると5000mに達するまでかなりの登山をしなければならないし、シェルパ達との交流も重要になってくる。この本はだから大沢さんの努力を記した自伝でもあるし、現地のシェルパ達との交流を描いた記録でもある。

読んでいると誰もが感じるとは思うんだけど、大沢さんはかなりアクの強い人物です。現代的な視点から見るとちょっと独善的だと感じる部分もある。だけど大沢さんがやり遂げた偉業に対しては、自分のような小人物が理屈をこねてケチをつけることこそ独善的だと言わざるをえない。

大沢さんは極地で泳ぐために自宅にプールを作り、マイナス10度の冬に氷を割って毎日そこで泳いでトレーニングを行う。さらにヒマラヤではひどい高山病にかかりもはや一歩動くのも辛いという状態で登っていく。いったいいかなる精神力がそのようなことを可能にするのか。さらに彼は、「農業が成功したから、極地で泳ぐようになった」のではない。あくまで「極地で泳ぐために、必死になって働き農業を成功させた」のである。この無謀とも思える冒険を行うために汗水たらして地道に働き、冬に泳ぎ…ああ、人間とはどうやったらここまで強くなれるのか。

さらにこれは本には書かれていませんが、ウェブ上の情報によると大沢さんはその後も毎年のようにヒマラヤを訪れ元旦に泳いでいたそうです。元旦て!ヒマラヤでは完全に厳冬期ですよ!それを80歳すぎても続けていたとは…もはや言葉が出ません。

この恐るべき人物は本によると長野県松川町上片桐に棲んでいる住んでいるとのことですので常念岳の登山の帰りに上片桐まで行ってみました。上片桐駅で降りて駅前で聞いてみるとだいたいの場所を教えてもらうことができました。さすが有名人。ところが「もしかして亡くなってるかも…」と言われました。実は、その可能性はあると思っていました。大正生まれの方ですから、お亡くなりになっていたとしても不思議ではない。その場合はご遺族にお話を聞ければと思っていました。

松川町にはりんご園が多く、時期も採果の季節ですのでりんごがたわわに実っていました。そして近くまできたところでまた別の方にお聞きすると正確な場所を教えてもらえました(ちなみに上片桐より伊那田島駅のほうが近い)。そこでも「住んでいた」と言われたので、どうやらやはり亡くなっているようです。残念です。

着きました。Welcome To Everest Parkの看板があります。そして大沢氏がトレーニングしたプール!

自宅の前には珠峯公園の石碑と、詩が刻まれた数々の石碑。2000年以降1年に一つくらいのペースで作られているように見えます。自宅は一部窓が割れ、誰かが住んでいる気配はない。声をかけても誰もいないようです。隣の家の方にお聞きしたところ、やはり大沢氏は数年前にお亡くなりになっていて、遺族はもう遠方に住んでいてここにくることはない、とのことでした。また、連絡先もわからない、ということで電話してお話を聞くこともできなかった。

しかしプールは今でも水が流れ込んでいて特に濁ってはいませんでした。

時期はまだ秋ですが、大沢氏の遺志を少しでも継ごうと決意し、プールに入らせていただきました。「天竜川の河童」と呼ばれた大沢氏をリスペクトし、河童のかぶりものです。ここを大沢氏は何度も何度も泳いだんだな…

俺の精神力では大沢氏と同レベルのことをするのは不可能です。だけどプールを泳ぐことで、大沢氏の、いや大沢師の、魂の一部を預かったつもりです。山で、泳ぐ。それは誰にも賞賛されない、無意味な挑戦かもしれない。だけど俺にはわかる。師がいかに歯を食いしばり生きてきたかが。人が生きていくということを、最も純粋な形で昇華した、偉大なる孤高のスイマーよ!!

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