「こいつがあの氷室なのか・・・・?」
別所は吐き捨てるように言った。
「間違いない。俺も最初は信じられなかったがな」
祐介はタバコの煙に目を細めながら別所近づく。
男は二人の前で、虚ろな目を空間に向け手を泳がせていた。
「ちっ、ざまあねえな。天才の名をほしいままにした氷室徳丸もこうなっちゃな」
別所の口ぶりには、嘲笑というよりも苛立ちが強く滲んでいた。
氷室はおっぱい星人の天才であった。彼の鑑定センスには多くの賛同者がおり、彼をおっぱいマスターと崇める者も多い。最近は秋ヶ原に端を発する貧乳ブームにおされ多少影が薄くなった感もあるが、それでも彼の作った美乳らん(ミニュラン)は世界的なおっぱい格付けの基準として絶対的な権威を誇っている。
「しかしいったいあの氷室がなぜ・・・・」
口にしてから別所は馬鹿なことをと思う。氷室は神とまで呼ばれたおっぱい星人なのだ。そんなおっぱい星人をおっぱい中毒にしてしまうようなおっぱい、いやしかし、そんなまさか・・・・
ーおっぱい中毒ー
19XX年、亡き有鮫博士が学会で「おっぱいの存在の比類なさ」の中でおっぱいに関する中毒性に言及したとき、誰もそれに注目しなかった。みなおっぱいの性善説に生きていた時代だったのだ。しかし200X年、新しく開発されたおっぱい測定器TITI 3号(Totemo Ii TIkubi)によっておっぱい表面にある突起物から出る乳白色の液体に催淫効果が認められるとおっぱい中毒の話は突如信憑性を帯びてきた。ちなみにTITI 3号を開発したのはくしくも有鮫博士の愛娘であり弟子でもあるマンゲシカ博士である。
いいおっぱいは吸ったものに適度な幸福感を与え、吸われた女性も適度な快感を得ることができるが、一部のおっぱいからは過剰な催淫成分が分泌され、吸った者はおっぱいの良し悪しよりもおっぱいの大きさにばかり目を向けてしまうようになるのだ。昔のこととは言え、「中世のおっぱいはいかにして美乳となったか」で博士論文を書いた別所は心穏やかではなかったに違いない。
「これ、まさか悪魔の仕業じゃ?」
祐介が小さな声で別所に話しかける。
悪魔というのは、都市伝説の一種で、吸った者を飽くなき豊乳への欲望へと駆り立て、頓死させてしまう悪魔のおっぱいといものであった。普段の別所ならそんな与太話に耳を貸すようなことはなかっただろう。しかし今目の前でおっぱいに溺れている男は他ならぬ氷室徳丸なのだ。
「俺もこの道に入った頃は絶対的なおっぱいってのに憧れててなあ。言ってしまえば氷室と同じ穴の貉だったのさ。でもあるときふと思ったんだよな。中学生のころ横に座ってた美代ちゃんのおっぱいはペタンコだったし、ブラもスポーツブラだった。でもセーラー服の襟元からのぞき見るおっぱいは、どんなおっぱいよりも輝いていた。おっぱいってのはなあ、そんなもんなんだよ。絶対的に美しいおっぱいなんてありゃしねえ。おっぱいは比べるもんじゃねえんだ!」
そう叫ぶと別所はバイクに飛び乗った。
「おい!別所、おっぱいパブ行かないのかよ!つーか美代ちゃんのおっぱい見たのかよ!」
「ちょっくらおいたの過ぎるおっぱいしゃぶりに行ってくるぜ!」
別所は祐介の言葉を無視して闇をつんざくように走り去った。赤く小さく光るテールランプがまるで乳首のようで・・・・
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