Sunday, August 14, 2005

『宇宙の素顔』 すべてを支配する法則を求めて

宇宙の素顔―すべてを支配する法則を求めて
マーティン リース (著), 青木 薫 (翻訳)


著者のマーティン・リースは天文学者の慢心を自制し、あくまで穏やかに、どこまでが確実な話をできるのか、どこまでが根拠のある話なのか、そしてどこからが想像、推測なのかをきちんと分けて語る。

しかし大げさなことを言おうとしないその語り口から飛び出す言葉だからこそ我々は腰を抜かすのだ。いまやマルチバース(多宇宙)理論は机上の空論ではない・・・・!!

この本が書かれた時点では宇宙背景放射の観測データはCOBE衛星に基づいているが、現在ではWMAPのデータが使われている。COBEの時点でその理論との一致度合いは、世界中の天文学者の目を疑わせるものだった(と聞いている)が、WMAPの結果はさらに確信を深めるに至っている。つまり、宇宙はかつて考えられていたようにビッグクランチに至ることはなく、平坦なものであり、かつ現在においても加速度的に膨張しているようなのだ。

膨張自体はハッブルの法則があるようになんの不思議もないことなのだが、加速度的、ということが問題なのである。それは宇宙に斥力が働いていることを意味する。宇宙斥力はアインシュタインが提唱し、その間違いをアインシュタイン自身が認め、20世紀後半にインフレーション理論でかつてはあったのだということになった。しかしWMAPのデータは現在でもこの宇宙斥力が残っていることを示すものだ。

ということは、我々が観測できる宇宙は半径137億年の球(ハッブル球)だが、実際の宇宙の広さはその10^10^6(10の百万乗)倍かも、いやそれどころではないかもしれないくらいの広さがあるということだ。天文学者はいままで「宇宙原理」に基づいて仕事をしてきた。これは、宇宙のどこにいっても物理法則は一定だろうし、観測的にもそのようだ、という原理という名の「仮定」である。しかし宇宙がかくも広いものであるならば、我々が知る物理定数が単なる「地方条例」でしかない可能性もある。この宇宙のどこかで、重力定数の強い地域があったり、光速がもっと早い地域もあるのかもしれない(しかしそれは永遠に見えることのないかなたに存在する)。

個人的な(物理学者でも天文学者でもない素人の)感想を言うなら、宇宙斥力が真空の斥力であり、現在宇宙が加速度的に膨張しているのなら、もう一度真空が相転移を起こす可能性もあるのではないだろうか。確か4つの力の中でも弱い力を媒介する中間子はゲージ粒子の中で唯一質量を持つと聞いている。そしてそれは重力、強い力、電磁力が相転移によってゲージ粒子が質量を持たなくなったことに対応しているはず。ということは、中間子も次の相転移で質量を持たなくなるのでは、と考えるのは自然じゃないだろうか。

前回の相転移から時間が経ちすぎている、というのがこの考えに対する反論になるかもしれない。しかし時間次元自体の存在はともかくとして、宇宙論を語るときに「時間の長さ」というのはいったいどんな意味を持つというのだろう? 我々の宇宙は137億歳である。非常に長く思えるかもしれない。しかしプランク時間10^-44(10のマイナス44乗)秒から相転移が終わるまで(10^-11秒)とそこから現在の宇宙(5×10^17秒)は、スケール的(オーダー的)にみれば似たようなものなのではないか。人間の感覚での時間が短い長い、というのは宇宙論では意味がない。だいたい人間の身体も、プランク長から原子を見るのに比べれば、太陽と似たような大きさだと言ってしまえるのだ。

とにかく137億年が短く、137億光年が近く思えるくらい現在の宇宙論ってのはとんでもないことになってるってことです。かくあるブルーバックスの中でも前提知識がなくてもとても読みやすい部類であり、なのに言ってることはすんごいので宇宙に興味がある人にはぜひ読んでもらいたいと思う本ですね。

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