Thursday, February 11, 2016

重力波天文学時代の幕開け

アメリカにあるLIGO(レーザー干渉計重力波観測所)が日本時間2月12日0時30分からメディア向けに会見を行うと発表しています。
http://www.ligo.org/news/media-advisory.php
今年はアインシュタインが重力波を予測してから100周年という節目でもあり否が応でも期待感が膨れ上がっています。

重力波は空間の歪みがさざなみのように広がっていく現象で、アインシュタインの相対性理論より予測されるのですが現実的には影響があまりにも小さくて今のところ観測には至っていません。

まず一般的には重力という力が弱い、ということに気がついていないひとがいるかもしれません。確かに山に登るのがつらいのは重力があるからだし重力に逆らって飛行機が飛ぶには多大なエネルギーを必要とします。

しかし例えば机の上にクリップをおいて、上から小さな磁石を近づけるとどうなるでしょう。クリップは磁石に吸い寄せられますよね。これは小さな磁石の磁力が地球の重力より強いということです。ただし電磁力にはプラスとマイナスがあり、全体としてみると打ち消す合うようになります。重力はマイナスがないため集まれば集まっただけ強くなるので遠隔力として作用します。(電磁力も遠隔力ではある。遠隔力ではない力は「強い力」「弱い力」という核力)

重力はそれほどまでに弱い力である上に、天体が安定的に運行しているときは重力波というさざなみも大きくないためにまず観測することは不可能です。ではどういうときに重力波が発生するかというと超新星爆発ブラックホール同士の衝突といったことが考えられます。ですがこれは頻繁に起こる現象ではないしある程度近傍で起きないとやはり重力波も弱くなってしまうので観測が難しい。

例えば重力波を検出するための干渉器は人里離れた場所の地下数百メートルに埋められていますが地上を自動車が走ると揺れを検出してしまいます。通常時の重力波は太陽と地球の距離で原子1個程度の大きさしか影響を及ばさないとも言われます。うん、無理だ。

しかしそれほどまでに観測が難しい重力波を検出しようと努力が続いているのはなぜでしょうか。

まず通常の天文学の観測では可視光、電波、赤外線等が使われます。これらはすべて電磁波ですね。天体が発生した電磁波が地球に届きそれを観測するわけです。つまり、電磁波が飛び出し、地球に到達する必要がある。では電磁波が飛び出せなかったらどうでしょう?

宇宙が生まれビッグバンを起こした直後、宇宙の密度は恐ろしく高く光子は直進することができませんでした。宇宙が広がり密度が低くなって、30万年経った頃に光は直進できるようになりました。これを宇宙の晴れ上がりと呼びます。そしてそのとき直進を始めた光は宇宙が広がるにつれ波長を伸ばし、今でも宇宙を埋め尽くすように飛び回っています。これが宇宙背景輻射と呼ばれる電波です。現在宇宙の年齢は137億年であることがわかっていますが現代天文学はその30万年のときまで遡ることができるのです。しかし逆に言えば、それより前のことは電磁波では観測できず、理論的に推測することしかできません。

重力は自然界に存在する4つの力のうちで飛び抜けて弱く、宇宙が生まれ力が分岐するとき最初に生まれたと考えられています。その時間なんと10-43秒、0.0000000000000000000000000000000000000000001秒(プランク秒)です。重力波は空間自体を伝わりますから密度は関係しません。そして宇宙が生まれてから10-34秒でインフレーションが起き直後にビッグバンが続きます(宇宙のインフレーションモデル)。これは宇宙史上最大の激震なので当然重力波が発生します。つまり、背景輻射のように背景重力波を観測することができれば、宇宙開闢後10-34秒のインフレーションに迫る直接的証拠を見つけたことになるわけです。

なので重力波の検出が直接インフレーションに結びつくわけじゃないけど、非常に重要なメルクマールとなります。今回のLIGOの発表が本当に重力波の検出であれば、2013年のCERNのヒッグス粒子検出と同じく確実にノーベル賞が与えられるでしょう。

[UPDATE] LIGOより重力波直接的観測が正式に発表されました。おめでとうございます。

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